先端技術で公園の常識を超える - 東京G-LINE

多様な表情を見せる東京G-LINE

 

東京G-LINEの形状は大きく別けて①高架橋、②地下トンネル、③旧掘割の3つに別けられる。今回はこの3つの形状において東京G-LINEはどういった戦略が考えられるか、事例と共に見ていこう。


高架橋 - ハイライン 

 

東京G-LINEの高架橋を想像するのに一番分かりやすいのは初回に紹介したニューヨークのハイラインである。廃線になった貨物鉄道高架橋が約210種類もの植物と共にモダンにデザインされたお洒落な緑道公園として生まれ変わったハイラインの出現により、治安と環境の悪さから、人が近寄ってはいけない場所とされ、不動産価値はほぼなかった元精肉工場地帯(ミートパッキングディストリクト)が、マンハッタンで一番不動産価値の高い地区の一つになったのである。たかが公園に思われるかもしれないが、ハイライン完成後その周辺地区のイメージは一掃され、今や世界中の最高級ブランドが集積し、高級住宅が数多く建てられ、そこに住むことやお店を持つことががステータスとなっている。場所によっては、ハイラインから2街区離れただけで地価が2倍近く差が開いてしまっているところもあるくらいだ。

 
ハイライン以前と以後でどれだけ変化したかは、以下のリンクの写真で見ることができる。

www.businessinsider.com

ハイラインの訪問者数は年間760万人近く、ニューヨークで最も訪問者数が多い観光地として、自由の女神やメトロポリタン美術館などよりも断然多くの人々が訪れている。たかが公園、されど公園、この訪問数を見れば、その強力な魅力を証明している。 ただし、ハイラインの管理運営団体であるフレンド・オブ・ハイラインはあまり観光地化することを懸念しており、より地元の人々が利用しやすい状況を保つために工夫をしている。彼らは子供から大人まで、地域対象の多様なイベントを数多く企画しており、現在では全訪問者数の1/3である年間230万人のニューヨーカーが訪れる様になった。

 

www.thehighline.org


ハイラインでもう一つ注目すべきことは、管理運営団体のフレンド・オブ・ハイラインは従業員140人、ボランティア180人から成り立つNPO団体であるが、内部にマーケティングとブランディングのプロがおり、資金調達を独自に行うことにより、完全独立採算を実現していることである。年間おおよそ15億円の運営費がかかっているが、その大半は民間からの寄付金で賄われており、その他はイベントやベンダーなどへの場所貸し賃料などの収入源を確保している。

もちろん何もしないで寄付金が集まるわけでなく、様々な手法でハイラインのブランド化を成功させ、環境貢献を強くアピールしたい企業にとって逆に寄付をしてでもハイラインブランドに乗っかりたいという状況になっている。また、周辺不動産価値の向上も可視化し、そのデータを元に不動産オーナーから寄付金を貰うことにも成功している。年に一回の「ガーラ」と呼ばれる総会ディナーパーティーは、数多くのセレブも参加する様なステータスのあるパーティとなり、そのパーティーにおいて2〜3億円の寄付金が一晩で集まるのである。

行政に頼らないこの仕組みこそがこのハイラインの継続的な成功を裏付けており、東京G-LINEもフレンド・オブ・ハイラインの様なマーケティングのプロ集団を運営団体として設ける必要がある。寄付金の制度として、日本とアメリカでの違いもあることが言い訳として使われるが、それだけで片付けられる問題ではないことが以上のことで分かる。もし制度を改正することによって、こういったプロジェクトが実現する可能性が高まるのであれば、それを改正しない理由はない。

高架橋の緑化は何も上に上がらなくともその魅力は地上からでも感じることができる。以下のビフォア・アフターからも想像できる様に、東京G-LINEは周辺環境を一変する程のインパクトを持っている。

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*(ビフォア)神田橋付近から見た都心環状線の現状(写真提供:初夏の大手町:日本橋川南岸の散策道「大手町川端緑道」 PART3 - 緑には、東京しかない


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*(アフター)東京G-LINE完成後の景観。こんな景観が都心3区を一周する。


地下トンネル - ローライン

 

ハイラインは良く話題に上がるが、実は現在またまたニューヨークで、今度は「ローライン」という施設が計画されていることをご存知だろうか?ハイラインが高架橋の公園であれば、ローラインは使われなくなった地下鉄操車場を地下公園にしようという計画である。最新のテクノロジーを使って、地上で集めた太陽光を光ファイバーの入ったチューブを使って地下へ伝達し、それをレンズで拡散して地下でも植物を育てることを可能にするというものである。ハイラインがあればローラインがあってもおかしくはない。そんな冗談のような話、通常であれば人々に笑われて終わるのが関の山だが、それを真剣に議論、研究し、現時点では資金が集まり、ニューヨーク市や都市交通局(MTA)から敷地利用の許可が下り、2021年の完成に向けて前進し続ける、それがニューヨークである。

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*ローラインのコンセプトダイアグラム(提供:Lowline Lab)

ローラインは、その設備やどれだけ実際に植物が育つかを実験するために、ある倉庫を実験場として改造し、毎週末一般公開をした。すると、話題が話題を呼び、単なる実験場が観光名所となるどころか、子供達の教育プログラムに取り込まれたり、ヨガ教室や瞑想など、色々な利用のされ方に発展し、10万人以上の人々が訪れた。実験場でこの騒ぎであれば、実際にローラインが完成した時の反響は想像以上のものになるであろう。世界で初めての地下公園、いったいどんな驚きを届けてくれるのか、今から楽しみである。

thelowline.org

このことは世界初の地下公園を創造するという挑戦だけでなく、このような新しい発想を受け入れてサポートする姿勢こそが未来のイノベーションを生み出すきっかけとなり、世界中から英知を惹きつけ続けているニューヨークの姿を物語っている。日本、そして東京も世界の英知を惹きつけるためには、このくらいオープンに挑戦できる仕組みをつくるべきである。

都心環状線も汐留トンネルや霞ヶ関トンネル、千代田トンネルなど地下トンネルが複数存在する。しかし、このローラインのテクノロジーを持ってすれば、地下であっても東京G-LINEを繋げることができる。地下庭園は幻想的に解釈し直された日光が降り注ぎ、また新しい体験を演出する。人々は今までにない景色を見ると同時に、科学者も人工空間における植物の栽培に対する様々な実験ができる。つまり、これは同時に農業におけるイノベーションを産み出す実験場ともなり得るのである。

 

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*(ビフォア)汐留トンネル(写真提供:首都高速都心環状線江戸橋JCT→浜崎橋JCT - T.T.「旅の記録」

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*(アフター)汐留トンネルを地下公園とした場合。公園だけでなく、植栽のイノベーションを生み出す実験場ともなる。

 

旧掘割 - 東京の水辺の復活

 

東京は昔は東洋のベニスと言われる程水辺空間が街中張り巡らされていた。それが様々な経緯で失われていったが、その変遷の一つが都心環状線である。江戸橋JCTから汐留の方に走ると半地下になった高速道路が新金橋や采女橋(うねめばし)など多くの橋をくぐる。それは、昔のお堀を乾して高速道路につくり替えたからであり、車で走ると恰も川底を走っているかの様な錯覚を感じることができる。

この旧掘割部は、例えば水辺を復活させることも考えられる。既存の川は水を浄化したり、水位をコントロールするのが難しいのに比べ、新しくアメニティとしてデザインされた水辺には多くの自由度が許される。地上に対して地下1階レベルである水辺レベルに緑地遊歩道を設けたり、一部店舗を設けたりすることも可能になり、高架とは違った形でまた喧騒を忘れられる都心のオアシスとすることができる。一部水深を20cmくらいにすることによって、子供達が水遊びをしたり、大人が足をつけたりできるようにすることも可能であり、酷暑の中、覆い茂る木々の日陰の下で水辺に触れることができる空間があったら、どんなに魅力的だろうか?

そんなその一つの事例としてソウルの清渓川が挙げられる。ソウルの都心のど真ん中を流れていた清渓川は、ほぼドブ川となってしまった上に、蓋をされ、その上に高速道路が建設されたことによって人々の記憶から完全に消えてしまった。それが2005年に市長の決断により高速道路が完全に撤去され、新しい都市のオアシスとして全長約5.8kmの人工の川が完成したのである。その後、様々なイベント等によって人々を魅了しながら発展を続け、周辺の不動産価値にも大きな影響を与えた。

 

www.seoulnavi.com

 

日本橋に青空を取り戻し、水と緑のネットワークを実現

 

同様の考え方は日本橋川の復活としても語ることができる。先述した様に、東京G-LINEの考え方では、例えば、日本橋付近では都心環状線が撤去され、Green Lineが一部川辺を歩くBlue Lineになってもコンセプトは変わらない。つまり、高架公園もあれば、地下トンネル公園、掘割公園、そして実際の川沿い公園もあってもいい。そしてそれがまた高架公園へと繋がっていき、一つのループが完成する。そうした考え方をすれば、日本橋のためだけに投資するのではなく、東京G-LINEのネットワークを結ぶ全体解の一部として日本橋に青空が戻ってくるというシナリオが可能になるのである。日本橋の上空に高速道路がなくなること自体にどれだけの価値があるか分かりにくいが、東京G-LINEの一部として考えれば、その効果は分かりやすいだろう。


東京G-LINEはこれら全て足して更に独自の仕掛けも盛り込む

 

このように、部分的に様々な実験がニューヨークや各国で行われているが、ハイラインはたかが2.3km、ローラインは6,000m2の敷地、清渓川は全長5.8kmである。それに対して、東京G-LINEは一周14.8kmとその規模は圧倒的であり、しかもループとして完結しているのである。それぞれの場所ごとに独自の特徴を演出しつつ、様々なライフスタイルから未来技術まで自由に実験される空間が広がる。日本初のイノベーション特区として、様々な最新技術を都市のシステム(スマートシティー)としてどのように落とし込むべきかという研究をする「場」となり得るのである。

繰り返しになるが、東京G-LINEは未来への投資であり、次世代に残す都市遺産の創造である。東京G-LINEの使い方は自由であり、その細かなプログラムは時代や環境に合わせて柔軟に調整することができ、利用する人々が独自の使い方を提案して多様な魅力を重層した空間になる。そのため、国内外の人々を惹きつけ、将来に向けてより成長していくネットワークとなる。都心居住、観光立国が謳われる今、都心にはより多くのアメニティが求められている。川のネットワークに加えて、それと立体的に交差する緑のネットワークを形成できれば、東京の魅力は絶対的なものになるのではないか。