都心環状線の持つ想像以上のポテンシャル - 過去のインフラを未来に向けて更新

急速に変化する都市の常識
「車中心から人を中心としたインフラ」

 

この東京G-LINEは、都心環状線を現在の「車のためのインフラ」から「人のためのインフラ」に生まれ変わらせるものである。現時点では笑い話のように聞こえるかも知れないが、凄まじいスピードで変化するテクノロジーの中で、都市の常識は急速かつ大胆に変化している。

 街は近代化していく中で、経済発展を産む産業を中心につくり変えられていった。そして効率よく物資や人をA地点からB地点に運ぶことが街の最重要課題とされ、人々の街中での活動は二の次とされた。現在、街中の屋外で人々の賑わいが感じられるところは殆ど限られている。空間の大半は車のために整備され、人々は細い歩道などに押し込まれ、まともに歩くことすらできない。
 別にこの現象をここで否定したい訳では決してない。日本の成長においてそのプロセスは必要であった。しかし、経済発展を一定以上遂げ、成熟期を迎えた先進国では、その産業中心の考え方から、人の生活中心の考え方に次々にシフトしてきている。道路を人間に解放していく考え方は単に地球の環境のためにということでなく、単純にその方が人々が活動しやすく、住みやすく、魅力溢れる街になることが証明されてきたからである。そして、そういった街に人材が集まりイノベーションが生まれたり、周辺の不動産価値や商業の集客力が増大するなど、様々な経済効果を生んでいるのである。経済効率優先に考えた場合、自動車インフラを守ることが最善策のように思われるが、実際にはその逆の方がより大きな経済効果を生んでいることが証明されて来ているのである。

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* マンハッタンの街から車線がどんどん減り、人々が快適に溜まれるプラザが次々とできてきている。そのことにより、より多くの人々を魅了し、周辺経済も伸び続けている。(写真提供:New York City Department of Transportation

 しかし、本当に都心環状線の高速道路としての機能は必要なくなるのか?という疑問は、しっかりと議論されるべきであり、そのことは次回以降じっくりと検討したい。その前にまず今回はこの都心環状線の位置づけを「人」を中心に考えた際に発揮されるポテンシャルについてみてみたいと思う。


都心環状線の持つ想像以上のポテンシャル - 経済効果

 都心環状線の持つポテンシャルは大きく分けて3つある。①立地、②形状とアクセス、そして、③周辺不動産の潜在価値である。


①立地
まずはその立地である。先述したように、都心環状線は都心3区の主要どころ、日本橋、京橋、銀座、汐留、東京タワー、霞ヶ関、皇居、全てを繋いでおり、ここを一周するだけで、多くの観光スポットを網羅することができる。

②形状とアクセス
都心環状線の形状は非常に多様である。高架になったり、川の上を走ったり、昔の掘割を利用した半地下になったり、地下トンネルを抜けたり、空間として興味深いだけでなく、東京の様々な表情を見ることができる。そして、周辺からのアクセスは高速道路という特性から既に程良いバランスで設置されており、バリアフリーである。そして、何よりもそれが完結した一つのループであることが大きい。

③周辺不動産の潜在価値
以下の断面ダイアグラムが示すように、現在都心環状線の周辺不動産価値は、高速道路から来る騒音、公害等の影響で大きくその価値を下げている。しかし、逆に捉えれば、その高速道路が公園になるなど、不動産価値に対する付加価値となれば、その価値上昇の振れ幅は莫大なものとなることが予想できる。 

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     * 都心環状線の典型断面。公害や騒音から隣接する不動産の価値を大きく下げている。

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     * 東京G-LINEの典型断面。都心のオアシスと化した都心環状線と連続した不動産はその価値が最大化する
  

完結ループの東京G-LINEが与える面的な経済効果


 この断面から見て取れるように、都心環状線を緑化した瞬間にその周辺の不動産価値は何倍にも跳ね上がる。これまで最低だった場所が最高の場所に生れ変るのである。目の前に広がる景色はモダンにデザインされた様々な植栽が広がり、ビルからそのまま直接空中庭園にアクセスすることができる。商業化し過ぎない程度に戦略的に配置された店舗では、新鮮な野菜が買えたり、カフェや食事処で友達と歓談できる。何よりも車を気にしないで動き回れるという付加価値は子育てにも大きい。また、街中の喧騒も木々に覆いかぶされ、東京都心でこれ程までに静かに暮らせるとは誰も想像ができなかったであろう。これ程迫力のある付加価値を持った不動産は、これまで見たことがない。
 こういった仕掛けを高架橋の一部緑化や高速道路を地下に埋めて、その上を公園にするといったプロジェクトは世界でも複数見られるが、それを余計なコストを描けない既存インフラを利用した街中を通り抜ける一周14.8kmのループ全体で行う東京G-LINEの面的経済効果は絶大と言えるだろう。
 

災害対策やイノベーション特区としても力を発揮する


 東京G-LINEの持つ更なる可能性は、災害時の緊急支援物資を輸送するライフラインとなり得ることである。東日本大震災でも一番の議論となったように、災害時において緊急支援物資や医療サポート、ボランティアなどの人々をどれだけスムーズに被災地に運び届けられるかは決定的要素である。この都心環状線に車がないという状態は、災害時には緊急車両等がスムーズに必要箇所に移動することを可能とするのである。
 そして、更には現在様々な新しい未来的な移動テクノロジーが開発されているが、道路交通法等によりその実験すらし難い状況にある。例えば東京G-LINEはイノベーション特区として、場所場所で未来の移動インフラを実験することができたり、一般の人々に触れてもらう場を設置することにより、イノベーションの実装を加速化する装置ともなり得るのではないだろうか?

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* 宝町出口付近の都心環状線の現状。(写真提供:T.T.さんの「旅の記録」

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* 同じ都心環状線を東京G-LINEに。都心のライフスタイルが一変し、その付加価値は計り知れない。

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* 災害時には緊急支援物資のライフラインとして活用される。

 つまり、東京G-LINEは景観を良くしようとか、地球環境の為に緑を増やそうというだけの話ではない。東京G-LINEがループであることから、その付加価値を東京に面的に創生することができるのである。理想論だとして議論を終わらせるのではなく、経済的な効果、税収の増加なども計算、比較する価値は十分にあるだろう。東京が復活するには、このくらいの覚悟が必要だ。

 

 東京G-LINEは何も観光客を集めるためのものでなく、東京に住む、働く、遊ぶ人々に対してより快適なライフスタイルを提供し、次世代に向けて東京が生活するのに理想的な街環境を創り上げるきっかけになるものである。そのことは、世界から優秀な人材を集め、未来に向けたイノベーションを生む都市をも創出する。1962年、日本は来たる車社会を見越して都心環状線を短期間で創り上げ世界を圧倒した。今また、日本は未来への分岐点に立っている。現状を維持するか、20年後の都市像を想像して前進するか、真剣な議論が必要である。